Kerberos認証は、良好なセキュリティと利便性を提供するために設計されたネットワーク認証プロトコルです。特に企業環境や大規模なネットワークで広く利用され、相互認証やシングルサインオン(SSO)を実現します。
本記事では、Kerberos認証の認証フローを詳細に説明し、正常な動作について解説します。
Kerberos認証の概要
Kerberosプロトコルは複数のコンポーネントから成り立っており、ユーザーやサービスの認証を行います。
主なコンポーネントには以下が含まれます。
- クライアント
- 認証を受けるユーザーやアプリケーション
- KDC (Key Distribution Center)
- 認証サーバー
- クライアントとサービスの間でチケットを発行
- サービス
- クライアントがアクセスを要求する資源やアプリケーション
認証フロー
Kerberosの認証フローは、主に以下の4つのステップで構成されています。
- クライアントの認証要求
- チケットとセッションキーの発行 (TGTの取得)
- サービスチケットの要求
- サービスへのアクセス
各ステップの詳細な挙動については後続に記載します。
1. クライアントの認証要求
クライアントはKDCに対して認証リクエストを送信します。
このリクエストには、ユーザーIDと必要なサービスの情報が含まれます。リクエストは以下のように構成されます。
- ユーザー名 ※ログインパスワードはこの時点では送信しません。
- ユーザーがアクセスしたいサービス名
2. チケットとセッションキーの発行 (TGTの取得)
KDCは、ユーザーの資格情報を確認し、認証が成功した場合に「チケットグラントチケット(TGT)」と呼ばれる特別なチケットを発行します。また、この際のセッションキーも生成されます。
TGTには以下の情報が含まれます。
- ユーザーのID
- TGTの有効期限
- KDCのID
- セッションキー(暗号化されたもの)
TGTとセッションキーは、クライアントに返送されます。この情報は暗号化されており、クライアントは自分のパスワードを用いて復号します。
3.サービスチケットの要求
クライアントは、TGTを使用して特定のサービスにアクセスするための「サービスチケット」を要求します。
このリクエストには、以下の情報が含まれます。
- TGT
- サービス名
- 現在のタイムスタンプ
KDCはTGTの有効性を確認し、要求されたサービスに対するサービスチケットを生成します。サービスチケットには、クライアントのIDとサービスのID、セッションキーが含まれます。
4.サービスへのアクセス
最後に、クライアントは取得したサービスチケットを対象のサービスに送信します。
サービスはこのチケットを検証し、正当なクライアントであることを確認します。検証が成功した場合、サービスはクライアントにアクセスを許可します。
認証フローのまとめ
Kerberos認証フローは、以下のようにまとめられます。
- クライアントがKDCに認証要求を送信
- KDCがTGTとセッションキーをクライアントに返送
- クライアントがTGTを使用してサービスチケットを要求
- KDCがサービスチケットを生成して返送
- クライアントがサービスチケットをサービスに渡し、認証を受ける
セキュリティ上の利点
- 相互認証
- クライアントとサービスが互いに身元を確認可能
- データの安全性
- チケットやセッションキーは暗号化されており、ネットワーク上の攻撃者に対して防御が強化される
- シングルサインオン
- 一度のログインで多数のサービスへシームレスにアクセスできる
おわりに
Kerberos認証は、セキュアで効率的な認証メカニズムを提供し、多くの企業や組織で広く利用されています。
認証フローの理解は、Kerberosを効果的に運用するうえで不可欠です。セキュリティに関心がある方や、IT管理者にとって、Kerberosの知識は非常に有用です。
Kerberos認証の正しい理解を身に着けて適正に活用することで、組織全体のネットワークセキュリティを高めることができます。
本記事が、Kerberos認証の認証フローの理解にお役に立てば幸いです。
前野 真夏(日本ビジネスシステムズ株式会社)
クラウドソリューション本部所属。 Microsoft 365ソリューションを主軸に、Active Directoryなどの認証領域も担当している。 趣味はカラオケと銭湯巡り。好きな音楽のジャンルは邦ロック。
担当記事一覧