本記事では、PowerPointやWordのドキュメント翻訳について、ローコードの範囲での実装パターンをご紹介します。
また、機能カバレッジ(辞書対応含む)・翻訳精度・実装の難易度 の観点で、主要なパターンを比較しました。
- 比較サマリー
- 実装パターン1: M365 Copilot(デスクトップアプリ)で直接指示
- 実装パターン2: M365 Copilot Chat(Analyst/GPT5)で"XML 直接翻訳"
- 実装パターン3: Power Automate+Azure Translator(V2 / V3)
- 精度・カバレッジの比較(検証所見)
- 必要ライセンス・リソース整理
- まとめ
比較サマリー
まず、本記事で比較した項目を一覧で紹介します。
| 実装パターン | 体裁保持 | 辞書/用語統一 | 精度(主観) | 実装難易度 | コメント |
|---|---|---|---|---|---|
| PowerPoint の Copilot 指示 | 高 | 不可 | 良好 | 最小 | 新規翻訳版プレゼンを自動生成。若干のズレはあるが実用的。 |
| Word の Copilot 指示 | 低 | 不可 | 低(実用不可) | 最小 | 直接変更できず、文字化け・未翻訳が散見。 |
| Copilot Chat(Analyst/GPT5)で docx をZip→XML翻訳→再Zip | 低 | 条件付き | 低(不安定) | 中 | ファイル破損や部分訳に。 |
| Power Automate+Azure Translator V2(テキスト) | 低 | 可能 | 中 | 中 | HTML 変換→テキスト翻訳→再構成。画像・レイアウト喪失しやすい。 |
| Power Automate+Azure Translator V3(ドキュメント翻訳) | 高 | 可能 | 非常に高い | 中 | 前処理不要でそのまま翻訳。Word も実用レベル。 |
これらを1つずつ見ていきます。
実装パターン1: M365 Copilot(デスクトップアプリ)で直接指示
1-1. PowerPoint の Copilot
最初に、PowerPointでのCopilot活用による翻訳の手順をご紹介します。
想定操作
- 翻訳対象の .pptx を開きます(デスクトップ版)。
- Copilot を起動し、以下のように入力します。
- 「このプレゼンを英語に翻訳して、新しいファイルとして保存して」
- 「中国語(簡体字)で新しい翻訳版を作って」

- 生成された新しいプレゼンをレビューし、用語や図版位置の微調整を行います。

結果と所見
- 新規ファイルとして、書式をほぼ維持した翻訳版が生成されます(わずかなレイアウトのズレはあります)。
- 辞書(用語集)適用はできないため、社内固有語や製品名の統一には手動での修正など工夫が必要です。
1-2. Word の Copilot
次に、WordでのCopilot活用による翻訳の手順をご紹介します。
想定操作
- 翻訳対象の .docx を開きます(デスクトップ版)。
- Copilot を起動し、以下のように入力します。
- 「このドキュメントを英語に翻訳して、新しいファイルとして保存して」
- 「中国語(簡体字)で新しい翻訳版を作って」

結果と所見
- Copilot 指示でドキュメントを直接変更できないケースがあり、文字化けや未翻訳が残るなど、実用不可レベルの結果となります。
- Word 原稿は別手段(後述の V3 ドキュメント翻訳)を推奨します。
実装パターン2: M365 Copilot Chat(Analyst/GPT5)で"XML 直接翻訳"
続いて、M365 Copilot ChatのAnalystエージェントやGPT5を活用したXML直接翻訳のアプローチをご紹介します。
アプローチ
docx を zip 展開してXML(/word/document.xml 等)を抽出し、該当ファイルの日本語を英語翻訳します。その後、再zip化して.docxファイルを作成します。
想定操作
- M365 Copilot Chat(https://m365.cloud.microsoft/chat)を開きます。
- Analyst エージェントを選択、 または 通常のチャットで「GPT5 を試す」をオンにします。

- 以下のプロンプトを入力し、翻訳対象のドキュメントを添付して送信します。
あなたはファイル翻訳のスキルを持ったAIエンジニアです。 #指示 以下の手順に必ず従ってファイルを出力せよ。 1. 添付のdocxファイルをZip変換せよ。 2. 変換したZipファイルを展開し、「word」フォルダ内のdocument.xmlを確認せよ。 3. ファイル内のテキストをすべて抽出せよ。(テーブル内のテキストやテキストボックス内のテキストも含む) 4. 抽出したすべてのテキストを日本語から英語に翻訳せよ。なお、一度目の翻訳処理で完了とせず、全範囲で確認を行い、見逃した日本語テキストがあれば再度翻訳しすべての日本語テキストが翻訳された状態まで補正し続けよ。 5. document.xml内の日本語テキストを翻訳後の英語テキストに置き換えよ。 6. 翻訳後の document.xml を用いて再度Zipファイルに圧縮し、拡張子を.docxに変更してWordファイルを出力せよ。テスト用_BPMシステム操作マニュアル.docx

結果と所見
- ファイルを分析しながら翻訳処理を進めていることは確認できますが、生成されたファイルは破損していたり部分的な翻訳止まりになったりするなど不安定な結果となります。
実装パターン3: Power Automate+Azure Translator(V2 / V3)
最後に、Power AutomateとAzure Translatorを組み合わせた2つのバージョンの実装パターンをご紹介します。
3-1. V2(テキスト翻訳)
まず、V2(テキスト翻訳)の実装アプローチから見ていきます。
アプローチ
HTML に一度変換した後、翻訳を行い、再構成することで Word ファイルを生成します。

想定フロー

結果と所見
- Microsoftの標準コネクタでは、WordからHTMLへの変換処理ができません(手動変換や別サービスのコネクタを使用するなど工夫が必要です)。
- Word ファイルの生成は可能ですが、HTML変換時に画像が落ちる、書式が崩れるなど、原文の体裁保持は困難です。
- 短文やメール本文のようなシンプルなテキストには向いていますが、画像・表・段組み・脚注などレイアウト依存のドキュメントには不向きです。
参考
3-2. V3(ドキュメント翻訳)
次に、V3(ドキュメント翻訳)の実装アプローチをご紹介します。
アプローチ
Power Automate から Microsoft Translator V3(プレビュー)アクションを使用します。

前提(最小構成)
- Azure サブスクリプション
- Azure Translator リソース
- Azure Blob Storage(入出力用)
- Power Automate(プレミアム)
想定フロー

結果と所見
- ファイル変換などの前処理なしで、そのまま渡すだけで翻訳が可能です。
- 書式・画像を保持しつつ高精度な翻訳を実現します。
- 一般モデル、カスタムモデルのいずれも利用可能で、用語集の指定もできるため、社内の固有用語の翻訳にも対応可能です。
- ただし、Translator V3で指定できるドキュメントの格納場所はBlobのみのため、Blob以外のファイル格納場所を使用する場合は、Blobへの保存とコンテンツ取得処理が必要になります。
参考
精度・カバレッジの比較(検証所見)
以下が、各実装パターンの検証結果をまとめて比較した所見です。
| 実装パターン | 機能カバレッジ | 翻訳精度 | 実装難易度 | 総合評価 |
|---|---|---|---|---|
| PowerPoint の Copilot | 条件付き | 良好 | 最小 | ほぼ良好 |
| Word の Copilot | 限定的 | 低 | 最小 | 実用困難 |
| Word × M365 Copilot Chat | 限定的 | 低 | 中 | 実用困難 |
| Azure Translator(V2) | 限定的 | 中 | 中 | 実用困難 |
| Azure Translator(V3) | 非常に高い | 非常に高い | 中 | 非常に良好 |
※評価基準:「非常に高い」「高」「良好」「中」「低」「限定的」の6段階で評価
- PowerPoint × Copilot:書式保持は良好ですが、辞書機能がないため固有語の訳ぶれが残ります。実務では「ほぼ良好」です。
- Word × Copilot:直接ドキュメントを翻訳したり、新しいファイルとして保存することができず実用困難です。
- Word × M365 Copilot Chat:文字化け・未翻訳・ファイル破損が目立ち実用困難です。
- Azure Translator(V2):文字化け・未翻訳が目立ち実用困難です。
- Azure Translator(V3):PowerPoint/Word とも非常に良好ですが、Azure リソースが必要です。
必要ライセンス・リソース整理
各実装パターンで必要となるライセンスやリソースは以下です。
- M365 Copilot ライセンス:PowerPoint および Wordの Copilot、M365 Copilot Chat を使うケースで必要です。
- Power Automate プレミアムライセンス:Azure Blob やWordコネクタ のプレミアムコネクタ利用で必要です。
- Azure:Translator/ストレージアカウント(Blob Storage)利用のため、サブスクリプション+リソース が必要です。
まとめ
本記事では、M365 CopilotやPower Automate+Azure Translatorを使ったドキュメント翻訳の実装方法と精度を比較しました。
検証の結果、PowerPointはCopilotで比較的スムーズに翻訳できる一方、WordはAzure Translator V3を利用したPower Automateフローが有効な選択肢となるケースがあることが分かりました。
要件や運用環境に応じて、最適な方法を検討する際の参考になれば幸いです。