今回は Citrix ADC を紹介します。
Citrix VDI に触れたことがある方でもなかなか Citrix ADC に手を出せていない方はかなり多い印象です。Citrix が初めましての方でもどのような製品なのか、どのような役割を果たしてくれるか、読者の皆さんに理解しやすいように説明していきます。
- まずは ADC というワードから理解
- Citrix ADC とは
- Citrix ADC の製品ライン
- Citrix ADC のライセンス
- Citrix ADC の機能
- 構成図で見る Citrix ADC
- おわりに
まずは ADC というワードから理解
製品名にもある "ADC" って何だろうって思いませんか。Citrix 社の製品名を決める方が考えた何となく語感が良くて響きがカッコイイ名前なんでしょうか。
いいえ、違います。"ADC" は、Application Delivery Controller の頭文字を取った略称です。ネットワーク業界用語です。
ADC というワードの誕生の背景として、Web サイトのレスポンススピードの重要性が世に浸透してきた話をします。
ある時、下記のような Web サイトのレスポンス遅延に関わるビジネスインパクトについて数々の調査が公表されたのです。
サイト表示が0.1秒遅くなると、売り上げが1%減少し、1秒高速化すると10%の売上が向上する
Amazon (http://robotics.stanford.edu/~ronnyk/2007IEEEComputerOnlineExperiments.pdf)
表示速度が1秒から3秒に落ちると、直帰率は32%上昇する。 表示速度が1秒から5秒に落ちると、直帰率は90%上昇する。 表示速度が1秒から6秒に落ちると、直帰率は106%上昇する。 表示速度が1秒から10秒に落ちると、直帰率は123%上昇する。
Google (https://developers.google.com/search/blog/2010/04/using-site-speed-in-web-search-ranking)
作開始時間が3秒のサイトは1秒のサイトに比べ、コンバージョン率は38%低下、直帰率は50%上昇する
日本ラドウェア (https://webtan.impress.co.jp/e/2014/07/08/17757)
それを知った各企業は当然 Web サイトのレスポンススピードを上げようとします。そんなお困りの人に向けて秘密道具の如く現れたのが ADC なのです。
簡単に言うと ADC は、ロードバランサーにアプリケーションスイッチを加えて、さらに色々な機能や役割を詰め込んだ夢の機械といったところです。
Web サイトのフロントエンドとして配置されるロードバランサーをアップグレードすれば Web サイトへのレスポンススピードが上がりますよね、というのが狙いです。
ネットワークの負荷を分散するロードバランサーに、L7 情報を見て分散するアプリケーションスイッチが加わり、そんな機械を ADC という新しい名前で呼びましょうという流れです。
Citrix ADC とは
ADC が理解できたところで Citrix ADC のお話です。製品名の如く、Citrix 社が提供する ADC のアプライアンス製品というシンプルな話です。他社製品と比べ特徴的なことは、Citrix VDI との親和性が高いという点です。
Citrix VDI の説明は今回は割愛致しますが、簡単に言うと Citrix 社が提供する仮想デスクトップ(VDI)のソリューションです。今で言うとクラウド版の Citrix Cloud(Citrix DaaS など)やオンプレミス版の Citrix Virtual Apps and Desktops という名前で検索頂くとヒットします。
そんな Citrix VDI との連携を行うことで、VDI に安全でシームレスなインターネット経由の接続が出来たり、様々な認証方式を実装できたり、他にも細かな制御など Citrix VDI の環境を更にアップグレードすることが可能です。
Citrix ADC の製品ライン
Citrix ADC の製品ラインは、下記の4種類があります。
- Citrix ADC MPX
- Citrix ADC VPX
- Citrix ADC SDX
- Citrix ADC CPX
基本的に ADC を導入する場合は、物理アプライアンスの MPX か、仮想アプライアンスの VPX の選択となります。複数の ADC を一元管理したい場合などは、さらに SDX(物理アプライアンス)を検討します。CPX は、ホストが Docker の場合に導入できるコンテナベースの ADC です。
また、MPX に関しては SSL 処理に特化しているハードウェアが組み込まれているため、VPX より SSL 処理のパフォーマンスは高いです。選定ポイントの1つですね。
Citrix ADC のライセンス
Citrix ADCのライセンスは、形態・種別・エディションの3つに分けて理解する必要があります。
ライセンス形態
Citrix ADC のライセンス形態には、下記の3種類があります。
- Perpetual and subscription
- vCPU and Bandwidth(Pooled Capacity)
- On-premise and cloud
基本的にはスタンダードな永続ライセンスを購入することが多いと思いますが、Citrix ADC を多く管理している、グローバル展開をしているなどの大規模環境では、プール型ライセンスの購入も検討します。
また、例外として、Microsoft Azure や AWS などのパブリッククラウドが提供する仮想マシンの従量課金に含むパターンもあります。
ライセンス種別
Citrix ADC のライセンス種別は、下記の2種類があります。
- プラットフォームライセンス
- ユニバーサルライセンス
プラットフォームライセンスは、Citrix ADC を使用する上での必要なライセンスで、Citrix ADCの台数分必要になります。
ユニバーサルライセンスは、いわば拡張ライセンスで、Citrix ADC の同時セッション数の上限引き上げと、一部の機能の追加が含まれます。
ユニバーサルライセンスの数がそのまま同時セッション数となるため、プラットフォームライセンスには既定である程度ユニバーサルライセンスが付与されます。不足した場合や追加される機能が必要な場合に追加購入するライセンスです。
ライセンスエディション
プラットフォームライセンスに関しては、さらにエディションが存在し、4種類あります。
- Premium エディション
- Advanced エディション
- Standard エディション
- Express エディション
Express エディション以外はファミリーエディションと呼ばれ、基本的に購入ライセンスはファミリーエディションのいずれかとなります。上にいくほど上位のエディションとなります。
Express エディションに関しては、未購入の場合のエディションとなります。Express エディションにはかなり制限があり、運用環境での利用は現実的ではありません。Express エディションの出来ることは下記です。
- 最大 250 セッション
- 20 Mbps の帯域幅
- 20 Mbps の SSL スループット
- 一部機能の利用
- Web Logging, Load Balancing, Content Switching, Cache Redirection, SSL Offloading, Content Filtering, Rewrite, IPv6 protocol translation, Responder, AppFlow, Clustering, and Call Home
Citrix ADC の機能
Citrix ADC の機能は、かなり多く、Citrix ADCを専門としているエンジニアでもすべての機能を扱ったことが無いことが殆どです。
何人もの海外や国内の Citrix ADC のエンジニアと会話してきましたが、1/3 以上の機能を使っている人はほぼ見受けられませんでした。
これから記事執筆時点での一覧を紹介しますが、読者の皆さんが実際に利用する際には最新情報も併せて確認してください。「Citrix ADC Feature by Edtion Matrix」のような検索をすれば公式の情報が確認できるかと思います。
こちらが Citrix 社が公表しているエディションごとの機能マトリックスです。
※ Citrix ADC の機能は、ライセンスエディションによって使用できる機能に制限があります。
※ Citrix Gateway は、エディションではなく、Citrix ADC の主にゲートウェイ機能のみに限定された製品です。
Citrix (Citrix ADC at a Glance)
構成図で見る Citrix ADC
構成図を使用してさらにイメージを具体的にしましょう。
Citrix ADC は、インターネット経由で社内のシステムへアクセスする際のフロントエンドとなるケースが殆どなため、ネットワーク構成ではよく DMZ に置かれることが多いです。今回は採用頻度が多い Citrix VDI の外部接続のフロントエンドとしての役割を担うケースの構成を例とします。
ここでは主機能である負荷分散、セキュリティ、暗号化やゲートウェイが使用されています。さらに技術的でディープな内容は、今後の投稿でじっくり話したいと思いますので楽しみにしていてください。
おわりに
ここまで長い文章を読んで頂き、ありがとうございました!
Citrix 関連のシステム構築で、セキュリティ強化や外部接続などの要件は欠かせない要素となります。そんな要件/課題に対して、Citrix 製品との親和性が高い Citrix ADC は柔軟に応えてくれるでしょう。
Citrix 自体はじめての方も 他 Citrix 製品に触れてきた方も、設計/構築レベルまでは届かないものの、Citrix VDIどのような製品で役割も持つものなのかがイメージ出来てきたのではないでしょうか。
弊社では、一般に公開されている Citrix ADC の技術資格に加え、ベンダー向けの最上位資格を有している技術資格取得者がいるほど Citrix ADC に精通しています。導入のご相談はいつでも歓迎ですので、お待ちしております。
杉山 俊輔(日本ビジネスシステムズ株式会社)
ハイブリッドクラウド部に所属。 Microsoft Azure(IaaS/PaaS)と VDI ソリューション(Microsoft/Citrix/VMware)が専門のエンジニアです。
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