Azure BackupによるAzure VMバックアップを理解する~基礎編~

Azure Backupは、Azure VMのバックアップが可能なサービスです。スケジュール機能やオンラインバックアップ機能、データの遠隔地保管機能など、さまざまな機能を提供します。

本記事ではAzure BackupでAzure VMをバックアップをするうえで、知っておくべき基本的なしくみや、覚えておくと便利な情報などを、自身の経験をもとに説明します。

はじめに

本記事の前提条件を以下にまとめます。

  • 本記事は2025年10月時点の情報をもとに記載しています。実際にAzure Backupを実装する際は、最新の情報を確認してください。
  • 本記事では具体的な実装方法は記載していません。実装方法は、文末の参考情報に手順を含めたMicrosoft公式情報のURLをまとめているのでご活用ください。
  • 2025年8月1日にGAされた「エージェントレス マルチディスク クラッシュ整合性」バックアップ機能は、本記事では取り扱いません。

Azure VMのバックアップの流れ

Azure VMのバックアップを実行するために、大きく以下2つの操作が必要です。

  1. バックアップの有効化
  2. バックアップジョブの実行

バックアップの有効化

Azure VMでバックアップを有効化するために、以下3ステップの操作が必要です。

ステップ3を実施すると、バックアップポリシーがRecovery Services コンテナー(以下、RSV)とAzure VMにデプロイされます。このときAzure VMにインストールされているエージェントにバックアップ拡張機能が自動的にインストールされます。

  1. Recovery Services コンテナー(RSV)の作成
  2. バックアップポリシーの作成
  3. Azure VMでバックアップの有効化

バックアップジョブの実行

バックアップは、バックアップポリシーで設定したスケジュールに従って自動で実行されます。また任意のタイミングで手動で実行することも可能です。

バックアップが実行されると、バックアップジョブが開始されます。バックアップジョブは以下2つのフェーズで構成されます。

  1. スナップショット(Take Snapshot)
  2. コンテナーへのデータ転送(Transfer data to vault)
スナップショット(Take Snapshot)

「Take Snapshot」フェーズでは、Azure VMのスナップショットが取得されます。

Azure VMで実施される処理を、下表に簡易的にまとめます。Windows VMとLinux VMで実施される処理が異なります。

  Windows VM Linux VM
スナップショット前後のコマンド実行 不可 事前・事後スクリプトを設定可能
スナップショットの取得方法 Windows ボリューム シャドウ コピー サービス(VSS)と連携してスナップショットが取得される
  1. 事前スクリプト実行
  2. スナップショット取得
  3. 事後スクリプト実行

の順で処理が実施される

OS上の変更

「Microsoft Visual C++ 2015 再頒布可能パッケージ(x64) v14.40.33810.0」がインストールされる

Windowsサービス「ボリューム シャドウ コピー サービス(VSS)」の起動が自動に変更される

Windowsサービス「IaaSVmProvider」が追加される

なし
コンテナーへのデータ転送(Transfer data to vault)

Azure VMのスナップショットはRSVに転送されます。

初回バックアップでは、すべてのデータが転送されます。

2回目以降のバックアップでは、データ転送の前にAzure VMのディスク上のブロックが読み取られ、前回のバックアップ以降に変更されたデータブロックが識別されます。その後、差分データのみが転送されます。

スナップショットの種類

Azure Backupのスナップショットが確保する整合性は、以下3種類です。

  • アプリケーション整合性
  • ファイル システム整合性
  • クラッシュ整合性

AzureポータルからRSVを参照すると、以下のようにバックアップがどのスナップショットで取得されたかを確認することができます。

スナップショットの整合性

下表に、各スナップショットの概要と、バックアップがどのスナップショットで取得されるかを簡易的にまとめます。

  概要 Windows VMで該当するケース Linux VMで該当するケース
アプリケーション整合性 アプリケーションデータの整合性が担保される

Windows VM 既定

VSS(VSSライター機能)が正常に動作したケース

Linux VMで事前・事後スクリプトが構成され、成功したケース
ファイル システム整合性

すべてのファイルの整合性が担保される

アプリケーションデータはバックアップから復元した後で修正が必要になる可能性がある

Windows VMでVSS(VSSライター機能)の一部が動作しないケース

Linux VM 既定

Linux VMで事前・事後スクリプトが既定値のまま構成されていないケース

事前・事後スクリプトが失敗したケース

クラッシュ整合性

Azure VMのディスクに存在するデータがバックアップされる

読み取り・書き込みホストキャッシュ内のデータは保持されない

Windows VMが停止、または割り当て解除済み状態のケース Linux VMが停止、または割り当て解除済み状態のケース

Azure Backupの開始時間と所要時間

Azure VMのバックアップの開始時間や所要時間について、Microsoft公式の案内をもとにまとめます。

バックアップジョブ開始時間

Microsoft公式の案内では、スケジュールされた開始時間から2時間以内にバックアップジョブが開始されます。

参考までに、自身の経験ではスケジュールされた開始時間から5~20分以内にバックアップジョブが開始されます。

Take Snapshotにかかる時間

Microsoft公式の案内では、「Take Snapshot」フェーズの完了まで数分程度時間がかかります。

参考までに、自身の経験上Windows VM、および既定状態(事前/事後スクリプトが既定値のまま構成されていない)のLinux VMでは、「Take Snapshot」フェーズの完了まで7~8分程度かかります。

バックアップジョブ全体にかかる時間

Microsoft公式の案内では、初回バックアップを除く2回目以降のバックアップジョブは、24時間以内に全部の処理が完了します。ただし初回バックアップはこれより時間がかかる可能性があります。

参考までに、自身の経験上2回目以降のバックアップジョブは、完了までに1~3時間程度かかります。

バックアップ所要時間の見積もり

Microsoft公式の案内では、Azure VMのバックアップにかかる時間を見積もることはできません。バックアップにかかる時間と、ディスクサイズ(転送データ量)やディスク数との間に関連性がないことも説明されています。

Azure Backupに関する注意事項

Azure VMのバックアップを行う上で、Azure Backupの機能や動作に関する注意事項をいくつかまとめます。

バックアップ拡張機能

Azure Backupを有効化した際にAzure VMエージェントにインストールされるAzure VMバックアップ拡張機能は、Azure VMやOSに対して影響を与えません。

バックアップ拡張機能の主な役割は、バックアップのタイミングでWindows OS内部のVSSライター機能(Linux OSの場合は事前/事後スクリプト)を呼び出すものです。

バックアップを実行する時間帯

バックアップジョブの実行中にバックアップ拡張機能によって呼び出されるWindows OS内部のVSSライター機能(Linux OSの場合は事前/事後スクリプト)の処理はAzure VMの負荷に影響を与えます。

そのためバックアップをスケジュール実行する場合、可能な限りAzure VMの負荷が低い時間帯にスケジュールすることが推奨されます。

バックアップジョブ実行中のAzure VMの操作

Windows OS内部のVSSライター機能(Linux OSの場合は事前/事後スクリプト)の処理は「Take Snapshot」フェーズで実行され、このときスナップショットによる静止点が確保されます。

スナップショット処理の失敗を防ぐため、「Take Snapshot」フェーズ実行中はAzure VMに負荷がかかる処理や、Azure VMの起動停止操作、ディスク追加などの変更処理は行わないことが推奨されます。

「Take Snapshot」フェーズが完了している場合、スナップショットの静止点確保が完了しています。そのため「Transfer data to vault」フェーズ実行中であっても通常のAzure VM操作を実施して問題はありません。

参考URL

本記事に関する参考URL一覧です。

おわりに

本記事ではAzure BackupによるAzure VMのバックアップ処理について、基本的なしくみや、覚えておくと便利な情報などを、自身の経験をもとに説明しました。

Microsoftの公開情報を調べれば出てくる情報ばかりですが、「今すぐ知りたい」というときに目的の情報になかなかたどり着けないため、このようなかたちでまとめました。

Azure VMのバックアップをこれから使う方にも、既に利用中の方にも、本記事が少しでもお役にたてば幸いです。

執筆担当者プロフィール
山﨑 優美

山﨑 優美(日本ビジネスシステムズ株式会社)

ハイブリッドクラウド本部に所属。Windows Server・Linux、どちらのOSでもさわれるインフラエンジニアです。3児のママも兼務しています。

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