本記事は、Project Manager (以下、PM) と並んでプロジェクト全体を管理・サポートする役割「Project Management Office (以下、PMO) 」に関する、シリーズ記事の第一弾です。
大規模なプロジェクトにおいて欠かせない「PMO」というロールについて、大きく分けて3つの種類があることと、その役割についてお話しします。
テクニカルスキルではありませんが、プロジェクトマネジメントのスキルに関する話ですので、プロジェクト業務に従事するエンジニアにとって知っておいて損はない内容です。
※プロジェクト業務は様々な業界で執り行われますが、本連載ではITプロジェクトにスコープを当てて記載しています。
※ITプロジェクトに携わる際、大きく分けて (1) ユーザー企業の情報システム部 と (2) ITベンダー の二つの立場があるかと思いますが、本記事では主にITベンダーの立場で記述しています。
「PMO」って聞いたことありますか?
プロジェクト業務に従事しているかたであれば、「PM」は聞いたことがあると思います。「Project Manager ; プロジェクトマネージャー」の略です。
では「PMO」とは?「PM」とは違うのでしょうか?
「PMO」は「Project Management Office ; プロジェクトマネジメントオフィス」の略です。「プロジェクトを統制する仕組みを作り、実行していく組織」と説明される事が多いのですが、抽象的でイメージする事が難しいかもしれません。*1
まずは、大まかに「PMまたはプロジェクト全体をサポートする役割」と理解しておけばよいでしょう。
※PMをサポートする組織のことを指すこともありますし、その役割を担う人を指すこともあります。
PMOの種類と導入メリット
ひとくちに「PMをサポートする」と言っても色々なサポートの仕方があります。どのようにサポートするかによってPMOの役割は大きく次の3種類に分けられます。
- 支援型
- コントロール型
- 指揮型
種類ごとにPMとの役割分担や関係性も変わってきますので、整理してみました。
※イラストは個人のイメージに基づきます。
支援型
支援型PMOは、定型業務を中心に、PMの指示を受けながらプロジェクト管理業務を補佐します。
PMや各チームのリーダー・メンバーが業務を円滑に行うために先回りして仕組みを整えるので、プロジェクト全体や先のスケジュールを見渡せるような、視野が広く細部に気づけるタイプの人が向いています。
- 主な業務
- 個別プロジェクトに最適化したドキュメントテンプレート作成
- アドミン業務
- 内部統制用の資料作成
- 参画メンバー向けのトレーニングやマニュアル作成
- 導入メリット
- メンバーがタスクを実行するときに迷わないように細かいルールやツールを整備することにより、複数チームからのアウトプット品質を統一できる
- ある程度、定型化できる業務をPMOに集約することにより、PMは関係者との折衝・交渉やプロジェクト課題の検討・判断、メンバーへの指示などに集中できる
コントロール型
コントロール型PMOは、複数の関連プロジェクトが走っているような大規模プロジェクトにおいて顧客の意向を理解し、関連プロジェクトのPMたちと密に連携することによりプロジェクト全体の整合性を担保します。
3種類のPMOの中でいちばん恰好よく見えますが、実際はいちばん泥臭い役割です。(個人の見解です)
- 主な業務
- ガバナンス統制観点からのプロジェクト管理方法の提示・検討支援
- 関連プロジェクトをまたがるスケジュール管理
- 関連プロジェクト間の横断課題管理とNextActionの示唆
- プロジェクト全体の予算管理
- 導入メリット
- 関連プロジェクトPM間の連携を取り持ち働きかけることで、大規模プロジェクトであっても全体整合性がとれる
指揮型
指揮型PMOは、まだ未習熟なPMに対して後方支援の役割を担います。
PMが全体とりまとめに苦慮するような場面で代わりにファシリテーションをしたり、プロジェクト管理タスクが適切に行われているか点検・分析を行いPMにアドバイスをしたりと、影のフィクサーのように立ち回ります。
- 主な業務
- 会議ファシリテーション
- リスク分析
- プロセス分析
- その他PMのスキルを補うプロジェクトマネジメント業務
- 導入メリット
- キャリアの浅いPMが参画せざるをえない場合でも、経験不足やスキル不足を補完してもらいながらプロジェクト遂行を行うことができる
- ベンダーとしてPMに習熟した要員を育成する際、研修などの机上学習だけでなく実プロジェクトを通して実践的なPMスキル向上を狙うことができる
体制図で理解する3種類のPMO
ここまででご説明した支援型・コントロール型・指揮型のPMOそれぞれの役割を、プロジェクト体制図にプロットするかたちで表現したのが以下の図です。
複数の関連プロジェクトに分かれて実行されるような大規模プロジェクトでは、3種類のPMOすべてが併存することもありえます。
現場における実際のPMO
このように、同じ「PMO」という言葉であっても求められる経験やスキルがまったく異なりますので、PMOのアサインには注意が必要です。
さらに、実際のプロジェクトでは3つの役割が厳密に分かれるわけではなくグラデーションになっていたり、他の役割と混同されたりするのが実情です。
たとえば、以下のようなケースが考えられます。
- コントロール型PMOでありながら指揮型の役割を兼ねる
- 複数人のPMOでそれぞれの役割を分担して担う
- テクニカルな全体アーキテクトの役割がPMOというロール名で呼ばれている
- プロジェクト管理に留まらない雑務の集約係としてPMOを置く
いずれの場合でも、本記事に記載した3種類のPMOの解説については「そういう定義があるんだな」程度に留めていただき、現場の状況や体制上の制約によって必要な役割を見極めることが必要です。
みなさまの参画されるプロジェクトの実情を分析して、実際に求められる「PMO」の役割をプロジェクトの中で定義してください。
どのようなケースにおいても、PMと協力してプロジェクトが成功に向かってスムーズに進むように働きかける、というのがPMOのミッションと言えます。
まとめ
PMOという言葉を初めて聞いたというかたが、この記事を通して大まかなイメージを掴めていましたら幸いです。
たとえば「支援型PMOのイメージで若手をアサインしたが、顧客がベンダーに求めているのは指揮型とコントロール型の中間のロールだった」となったら、アサインされた本人も大変な思いをしますし、それ以上にプロジェクトの重大な課題に繋がってしまう可能性があります。
PMOに限定される話ではありませんが、プロジェクトの提案・立ち上げの段階でPMOというロールに期待する役割をステークホルダーと具体的にすりあわせることができれば、プロジェクトの管理・運営のありかたについて顧客・ベンダー双方が同じイメージを持つことができます。
必要なポジションに必要なスキルを持ったメンバーをアサインすることにより、プロジェクトの成功確率が大きく上がります。
次回の記事では、PMOとしてプロジェクトにアサインされたときに考えるべき内容について執筆予定です。お楽しみに!
*1:PMI(R) (2017)「PMBOK(R)ガイド 第6版」p.769 では、「プロジェクトに関連したガバナンス・プロセスを標準化し、資源、方法論、ツールおよび技法の共有を促進するマネジメント構造」と定義される。
S.Morita(日本ビジネスシステムズ株式会社)
2019年後半からプロジェクトマネジメント業務に従事、主に支援型PMOとしてプロジェクトに参画している。座右の銘は「あるものは使う、ないものは作る」「最大多数の最大幸福」など。趣味は手芸、散歩、国内旅行、推し活。
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