ChatGPT/Geminiなどを利用してオンラインセミナーの開催を企画した

2024年8月22日(木)に以下のオンラインセミナーを開催します。

www.jbs.co.jp

今回のセミナー、生成AIの力を最大限に利用して企画をしました。この記事ではその背景と実際に使ったプロンプトを紹介します。

背景

JBSではコロナが流行り始めた2020年4月以降、お客様への情報発信の手段としてオンラインセミナーを多数開催しております。お客様からは好評いただいている一方「オンラインセミナーを企画できる社員が限られている」という社内的な課題もありました。

不慣れなメンバーがオンラインセミナー開催を開催しようとすると、どこからどうやって企画していいかが分からないという状態です。今回のPower Platformのセミナーも、PowerAppsのアプリなら簡単に作れてしまうメンバーが、オンラインセミナー開催という課題を前にすると手が動かない状態となりました。

私の事を話しますと、2020年4月20日、真剣! Microsoft Teams しゃべり場:スーパーファン 2人が導入・利活用のツボを大公開|JBS 日本ビジネスシステムズ株式会社 というセミナーでご好評いただいた後、何回かオンラインセミナーで登壇をしております。社外のコミュニティでライトニングトークをさせて頂く機会もあり、自分の中ではセミナー開催には慣れている状態です。

しかしそれを人に伝えるとなると難しいです。上司からは「君みたいにオンラインセミナーを企画できる人を育ててほしい」と言われていますが、セミナーの企画過程を言語化することは簡単ではありません。

そこで考えたのが、オンラインセミナー開催に慣れている私が、LLMと対話しながらオンラインセミナーを作り上げ、その過程を公開すれば言語化完了ではないか?ということです。

正直、自分で考える方が早い気がしますが、以下の点のメリットを考慮しました。

  • 生成AIを利用すれば再利用性があるので、組織やチームメンバーが開催する時に参考しやすい
  • 私自身も検討のプロセスを言語化できるので、久しぶりにオンラインセミナーを開催する時に役に立つ
  • LLMと対話しながら検討する事でより良いセミナーになる可能性もある

実現性については、セミナーの内容をLLMに考えさせるという方法は先例がいくつもあるので、何とかなるだろうと思いました。

オンラインセミナーに必要な項目

ここでは、JBSでセミナーを企画する際に必要な事柄を記載します。

  • セミナーの内容にかかわるもの
    • セミナーの目的:JBSの活動を紹介するのは大前提として、見に来ていただける方にどういった価値を提供するのかを考えて目的を設定します
    • セミナーの内容:上記目的に合致したプレゼンの内容を作成します
    • セミナータイトル:50字~70字程度で設定します
    • セミナー概要:セミナーの宣伝文です。セミナーの目的、内容をまとめ、集客のための文章とします
  • 集客対象者:セミナーのお知らせをお送りするお客様、JBS営業がアプローチするお客様を定義します
  • 開催日程:他のセミナーとの兼ね合いで日程を設定します
  • 配信方法:配信方法は原則オンラインです
  • アピール対象のJBSの活動:アピールするJBSの事例やサービスを決めます

このうち、開催日程・配信方法・アピール対象のJBSの活動は開催前に決まる事が多いです。今回であれば、アピール対象のJBSの活動は「LiveSupport for Office 365」というJBSサービスであり、このサービスでの「Power Platformの問い合わせ対応について」をアピールしたいと考えました。※ 以下「JBSサービス」と省略して進めます

セミナーの内容はJBSサービスに合わせたものを選択します。JBSサービスの紹介は最小限にしつつ、そこに繋がるテーマを設定するのがポイントです。

テーマ設定の考え方

テーマ設定の考え方はいくつかありますが、考える順に書いていきます。

  1. テーマに興味を持って集まってくれる人が多いか
  2. テーマと実際のプレゼン内容が合致して、満足度が高くなるか
  3. 集まってくれる人が、紹介するJBSサービスに興味を持ってくれるかどうか

1番について、人が多い方がいいです。ですが、2番で書いたように誇大表現で人を集めてプレゼンの内容がお粗末だった場合や、宣伝と内容が違った場合はセミナーへの満足度やJBSへの満足度が下がるので避けなければいけません。集客が良くても満足度が低ければ意味がないので、極論、満足しそうな人だけが集まるように、あえてテーマを絞ることもあります。

3番が一番優先度が低く、セミナーの内容に満足した方がJBSサービスに興味を持ってくれればラッキー、興味を持ってくれなくてもセミナーの満足度が高ければOK、という考えでやっています。

テーマ設定をChatGPTと一緒に考える

初手からですが、ここが一番難しいです。

まず、テーマ設定の時に考えることを言語化してみました。

  1. JBSのお客様が困ってそうな事、興味がありそうな事
  2. 新しい視点、切り口である事
  3. 設定したテーマについて、JBSならではの内容を提供できる事
  4. 最近実施したセミナーと内容が重複していない事
  5. 紹介したJBSサービスに繋がる内容である事

その上で、LLMで怪しいポイントを考えました。

  1. JBSのお客様が困ってそうな事、興味がありそうな事 → LLMには分からない
  2. 新しい視点、切り口である事 → LLMと会話して出すことが出来るか怪しい
  3. 設定したテーマについて、JBSならではの内容を提供できる事 → JBSならでは、ってどういうこと???
  4. 最近実施したセミナーと内容が重複していない事 → 最近実施したセミナー内容をインプットすれば大丈夫かもしれない?
  5. 紹介したJBSサービスに繋がる内容であること → これは大丈夫でしょう

はっきりいって、人間がホワイトボードでディスカッションした方が早そうです。

ただ、今回はLLMを使ってやってみる事が一つの目的でもあるので、がんばって考えてみます。

「4. 最近実施したセミナーと内容が重複していない事」をLLMに学習させる

まずはやりやすい所から取り組んでみます。

このセミナーの直前に2回のPower Platformセミナーがありました。

これらのセミナーと重複しない内容を考えるよう、LLMに指示します。ただ、これだけですと「このセミナーで話していない内容ならなんでもよい」となってしまうので、枠組みを決めます。幸い、JBSではPower Platformの導入についての標準的な導入プロセスを定義しているので、その内容をLLMにインプットします。

となります。

プロンプトと結果

以下の手順で依頼します。

  • JBSの考えるPower Platform導入について(※1)の知識をインプットする
  • 直近の2つのセミナーの内容(※2)をインプットする
  • ※1の内容かつ、※2の内容ではないものをアウトプットしてもらう

以下のプロンプトを入力しました。プロンプトに誤字や変換ミスがありますが、LLMが意図を汲み取ってくれました。

プロンプト1. 
この資料ははPower PlatformについてPower Platformの導入を担当するのIT企業が推奨する導入プロセスです。あなたは優秀なビジネスマンです。このPower Pointスライドを読んで内容を理解し、IT企業の主張を1000文字~1500文字以内でまとめてください。

※ JBSの考えるPower Platform導入について、のPower Pointファイルを添付
ありがとうございます。
今回添付した2つのpdfファイルは、JBSが推奨するPower Platformの導入プロセスの一部を開設したものです。

1. この2つの資料によって解説されている内容
2. JBSが推奨するPower Platformの導入プロセスのうち、この2つの資料によって解説されていないもの

上記2つをそれぞれ1000文字~1500文字程度で記載して下さい。

※ 過去セミナーのPDFファイルを添付

結果として、意図した回答が返ってきました。

詳しくはやり取りの結果をご覧ください。

https://gemini.google.com/share/f80f218150ad

感想

正直、期待以上のアウトプットが出てきたな、と感じました。知識ゼロの状態でセミナーのネタを出すとなると、資料を読み込んだり背景知識を確認したりが必要ですが、生成AIが一回でこの回答を出してくれるとうれしいですね。

また、実施するにあたってChatGPT(GPT-4)とGemini Pro(1.5)の両方を利用したのですが、Gemini Proの方が結果がよかったのでこちらを採用しました。複数の生成AIサービスでの実行結果を比較し、いい結果を返してくれた方とそのまま質疑応答を続けるのもいいなと思いました。

注意点
  • そもそもの枠組みである「Power Platformの導入プロセス - 2つのセミナーの内容 = 今回のセミナーのテーマ」は人間が決める必要があります。
  • この枠組みを生成AIを使って出すのは相当困難であり、その時間があれば知っている人に質問する方が早いと思います。
  • 情報管理について。JBSには生成AI利用ルールがあり、社外秘の情報は外部の生成AIサービスに投稿してはいけない事になっています。
  • 今回、生成AIに投稿した情報は一般向けのセミナーで配布している資料を基にしているので、会社のルールに抵触していない事を確認済みです。

「1. JBSのお客様が困ってそうな事、興味がありそうな事」をLLMに出してもらう

冒頭で「JBSのお客様が困ってそうな事、興味がありそうな事は、LLMには分からない」と書きましたが、過去のセミナーに参加したお客様アンケートの結果が手に入ったので、これをLLMに分析してもらいます。

お客様アンケートには「次回セミナーを開催するならどんなテーマがいいですか」という設問があるので、それをLLMに食わせてサマリを出してもらう作戦です。

このアンケート結果は社外秘情報なので、社内で利用できるLLMであるアイプリシティチャット Powered by ChatGPT APIを利用します。

www.jbs.co.jp

※ 先ほどのテーマ出しもアイプリシティチャットに依頼してもよかったのですが、当時は添付ファイルをアップロードする機能がなかったのと、OpenAIのLLMしか利用できなかったので、外部のLLMサービスを利用しました。

プロンプトと結果

社外秘情報がありますので、マスキングをさせて頂きます。

以下は、IT企業が実施したPower Platformセミナー視聴後の #感想 で、現状視聴者がPower Platformに対してどのような課題があるかが記載されたものです。この感想をもれなくに要約してください。文字数はどれだけ長くても構いませんので、内容を漏らさないようにしてください。

#感想
※ ここにアンケート結果を貼り付け
出していただいた23つの感想を、4つ~8つ程度のカテゴリに分けて表現してください。
Power Platformセミナー視聴後の感想を以下のカテゴリに分けて要約します:

1. 教育とトレーニングのニーズ
2. 実装と導入事例
3. 運用と管理の課題
4. 組織的な推進とサポート
5. コミュニティと市民開発

これらのカテゴリは視聴者のPower Platformに関する総合的な課題を反映しており、導入から運用、組織的な取り組み、そして市民開発の推進に至るまでの支援を求めています。

以上、5つのテーマ候補を出してくれました。

感想

JBSのセミナーにはありがたいことに1回あたり数百名の方に参加いただいております。お一人お一人の感想には目を通し、今後のセミナー開催・サービス提供に利用させていただいておりますが、人間の目で見るとどうしても自分が気にしている話題に目が行き、そうではない話題を見逃すリスクがあります。

LLMを利用すると、人間のバイアスを排除してフラットな視点で感想をまとめてくれるのが良いと思いました。

注意点

LLMを利用するとフラットな視点でまとめてくれるのはよいのですが、欠点としては平均的で面白みのない形で意見がまとめられるリスクがあります。

JBSが伝える以上、JBSの色を出したメッセージにしたいと私は考えているため、LLMが出力したバイアスの無い結果にJBSの特色を加えることで、尖った独自性のあるセミナー内容になると考えています。

セミナーのテーマを決定する

ここまでの作業で、以下の2点を出すことが出来ました。

  • 1 JBSのお客様が困ってそうな事、興味がありそうな事
  • 4 最近実施したセミナーと内容が重複していない事

ここで人間の会議を行い、今回のセミナーテーマを決定しました。

再掲しますが、今回のセミナーは「事例から学ぶ Power Platform の活用を促進させるための秘訣とは ー内製化支援担当者が語る企業全体に浸透させるためのコツー」となり、アイプリシティチャットに出してもらった「1. 教育とトレーニングのニーズ」「3. 運用と管理の課題」「5. コミュニティと市民開発」を意識したものになっています。

検討したテーマについて、選定基準である2,3を満たしている事は、人間の会議で決定しました。*1

  • 2 新しい視点、切り口である事
  • 3 設定したテーマについて、JBSならではの内容を提供できる事

残った項目はひとつです。

  • 5 紹介したJBSサービスに繋がる内容であること

こちらについては、当初方針通り、JBSはPower Platformの広い分野でサービス展開を行っておりますので、セミナーの内容に合致したサービスを案内すればいい、と考えました。

セミナーの中身を決めていく

テーマが決まったところでセミナーの中身を決めていきます。具体的な制作物は以下の通りです。

  • セミナーのストーリー
  • セミナー資料(Power Pointのスライドを想定)
  • 登壇者のトークスクリプト

セオリーとしては、大枠であるセミナーのストーリーを決めてから、個別資料となるセミナー資料や登壇者のセリフを決めていくことになります。

ですが、私は今回のセミナーの対談相手2名をよく知っており、登壇者同士でかけあうイメージが湧いてきたので、セミナーの最初から最後までのトークスクリプトを一気に書き上げてしまいました。こういったのも人間的だな、と思います。

ここでも生成AIの出番です。スピード優先でトークスクリプトを書き上げたので、誤字脱字や末尾の"ですます"が一貫しない部分がありました。それをLLMに修正してもらいます。結果的にきれいになりますし、最初からLLMに修正してもらうつもりで書き上げるのでスピードも速く、生産性が上がります。

セミナーのストーリーを決める(検証する)

トークスクリプトを一気に書き上げてしまいましたが、これが筋の通ったストーリーであるかは検証する必要があります。以下のように実施します。

出力結果を自分で確認し、また同僚のPower Platformエンジニアに確認してもらい、筋の通ったストーリーである事を確認しました。この内容で問題なくセミナーを実施できそうです。

仮に人間が作業する場合、セミナーのストーリーを決めてからトークスクリプトを作ると思いますが、これを生成AIにやらせると話す人のパーソナリティを考慮しないようなスクリプトになって有効ではないと感じます。

逆に具体的なトークスクリプトを決めてからストーリーを検証する、という今回のやり方は具現 → 抽象の変換なので、LLMが得意にしていると思います。

ストーリーを元に、セミナーの内容からJBSWebサイトに掲載するセミナーの募集文も作ってもらいます。サンプルとして別セミナーの募集文例もインプットします。

最終的に人間がレビューして、多少の修正を行いました。

セミナー資料を作ってもらう

セミナーストーリー、セミナー概要も出来たので、残りはセミナー資料となるPowerPointです。

ここもLLMで解決しかたったのですが、LLMはあくまでLarge Language Modelであるためか、思ったようなスライドを作成することは出来ませんでした。画像生成AIも学習元がイラストであることが多く、ビジネスシーンで利用されるような論理図・構成図を作成するのは難しいと感じました。

また、仮に作成できたとしても、以下のようなポイントを押さえて生成するのは難しいと感じました。

  • プレゼンでの視線誘導を考慮した要素の配置
  • 発表に適した文字数に収め、代わりにデザインで表現
  • スライド全体を通じたデザインの一気通貫性

プレゼンテーション用の資料の作成は、まだしばらく人間のワークとして残りそうです。

まとめ

はじめて生成AIを使ってセミナーを企画しました。

分析や文字情報の生成は期待通りかそれ以上に動作する一方、最終的な判断は人間がする必要がありますし、肝心のセミナー資料は今の所100%人間が作る必要があると思いました。

とはいえ、これからどんどん生成AIの性能が上がっていくことが予想されるので、積極的に利用して進化を楽しみたいと思います。

最期に、プレゼンで大事な事は3割が内容、7割が話し手の情熱だと思っています。内容がいくら良くても、話し手の情熱がないとよいと思ってもらえません。ここは生成AIがどれだけ進化しても変わらない部分ではないでしょうか。

上手くまとめた所で再度宣伝させていただくと、2024年8月22日(木)に以下のオンラインセミナーを開催しますので、もしご興味あれば参加いただけると嬉しいです!

www.jbs.co.jp

*1:生成AIにインプットするのが難しかったためです

執筆担当者プロフィール
寺田 敬佑

寺田 敬佑(日本ビジネスシステムズ株式会社)

クラウドマネージドサービス本部 所属。Microsoft 365 導入エンジニアとしてキャリアを重ねたのち、現在は JBS の Microsoft 365 系サービス/プロダクトマネージャーとしてサービス開発指揮を執る。

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